
スモールM&A、承継型起業におけるPMI(Post-Merger Integration:買収後の統合作業)は、買収先企業を円滑に自社の事業へ組み込むためのプロセスを指します。大企業のM&Aと比べ、スモールM&Aでは経営資源が限られているため、スピード感や実行力がより重視されます。
PMIがうまくできるかどうかはスモールM&A、承継型起業の成否に大きく影響します。
M&Aは買収が完了しただけでは成功とは言えません。むしろ、買収後のシナジー(相乗効果)を発揮できるかがM&Aの成否を分けるポイントです。PMIの失敗は、業務の混乱、顧客の流出、従業員の離職などにつながります。
スモールM&Aでは、買収先の企業規模が小さいため、社長(オーナー)一人に大きく依存しているケースが多く、経営者交代のリスクも高いです。そのため、PMIの適切な計画と実行が極めて重要です。経営者や特定の人にとても属人化していることで、PMIがうまくいかないと、会社、事業の持続性、強みなどを失ってしまうことにもなりかねません。
デューデリジェンス(DD)
→ 財務、法務、ビジネス、税務などを調査し、企業のリスクを把握します。特に、スモールM&Aでは「属人化リスク(特定の人が辞めると業務が回らなくなるリスク)」の確認が重要です。
PMI計画の立案
→ M&Aの目的(市場拡大、技術獲得、シナジー効果など)に基づき、具体的なPMIの目標を立てます。買収先の経営者や従業員にどのような変化を求めるのかを明確化し、実施計画を作成します。
オリエンテーションの実施
→ 買収先の従業員向けに、M&Aの目的や今後のビジョンを共有します。
経営体制の変更(必要に応じて)
→ 組織図、役職、業務の分担などを見直します。スモールM&Aでは、従業員に大きな不安が生じやすいため、経営の安定性を早期に示す必要があります。
コミュニケーションの確保
→ 買収先の経営者や社員に対して、明確な方針とビジョンを伝えます。これにより、離職やモチベーション低下のリスクを軽減できます。
従業員のモチベーション管理
→ 特にスモールM&Aでは、社員一人ひとりの影響力が大きいため、個別の面談を行い、懸念や不安を解消することが有効です。
業務プロセスの統合
→ システムや業務フローを統合するか、現状維持とするかを判断します。統合しすぎると混乱が生じやすいので、状況に応じて段階的に進めます。
従業員のスキル向上
→ 買収先の人材が新たな業務を行う必要がある場合、研修や教育が求められます。特に、ITシステムの導入が必要な場合は、操作方法の教育が必須です。
人事制度や報酬制度の調整
→ 買収先企業の従業員の雇用条件を変える必要がある場合、慎重に行います。報酬が減少すると、士気が下がる可能性があるため、十分な配慮が求められます。
M&Aの成果の評価
→ PMIの成功を判断するため、売上の向上やコスト削減、従業員の定着率の変化を評価します。買収から6か月から1年後に、目標の達成度を確認します。
継続的な改善活動
→ 問題が発生した場合は、必要な改善措置を講じます。事業の統合が終わった後も、買収先の独自のノウハウや技術を活かす取り組みが必要です。
買収先企業の経営が特定の人に依存している場合、その人が退職すると事業が立ち行かなくなる可能性があります。このため、オーナーや重要人物の業務を他の人にも引き継ぐ体制を構築します。
スモールM&Aでは、買収後も前のオーナーが一定期間残るケースがあります。オーナーが退任するタイミングと引き継ぎの計画を明確にしておくことが重要です。有効な関係であり続けることは大切ですが、下手に影響力、悪い意味で口出しされるというような関係になってしまうとやりにくくなってしまうのと、社内外、誰が経営者なのかと混乱しないように注意が必要です。
規模が小さい分、社員一人ひとりの感情が事業に与える影響が大きいです。M&Aにより「リストラされるのでは?」「仕事の仕方など大きく変わるのでは?」といった様々な不安が生じるため、個別面談やチームミーティングを頻繁に行い、従業員の安心感を高めることが必要です。
スモールM&A、承継型起業では、様々な非効率さが目立つと思います。もちろん、合理的に変えていくべきですが、従業員との関係が弱い中で、合理的といえど大きな変更をすると抵抗されることがあります。実際のオペレーションなどを変更していく場合には、その前に従業員との関係をつくっておくことが欠かせません。
システムを統一するとコストがかかりすぎる場合があります。最初は、別々のシステムをそのまま使い続ける方が賢明な場合もありますので、頭でっかちにならず、実態を掴んでから動くべきです。
買収先社員の離職が相次ぐ
PMIの初期段階で十分なコミュニケーションが取れていないと、社員が不安を感じ、転職するケースが多い。中小企業においては新しい人を採用しにくい環境があります。また、ノウハウなど仕事の仕方がマニュアル、パターンになっていないことや、キーマンという人が社員にいたりします。引き継ぎなどなく、このように従業員が離職してしまうと大きなダメージになるので注意です。
経営者の退任後に事業が停滞
M&A後すぐに前経営者が退任し、ノウハウが引き継がれないまま事業が停滞するリスクがあります。前経営者とは会社を買う前に、前経営者がボトルネックにならないこと、ボトルネックになる=属人部分がある場合には、その部分の解消がされるまでは引継ぎ、仕組みづくりへのコミットを契約書内に入れるなどが必要です。
実態の理解、従業員との信頼関係がまだまだ弱いときに、買収先の業務フローを無理に変更しすぎると、現場が混乱してパフォーマンスが低下する可能性があります。実態の把握、従業員との信頼関係づくりをまずはしましょう。
スモールM&Aでは、「人」に関するPMIが成功の鍵を握ります。社員の不安を取り除き、経営者の退任計画を明確にすることで、スムーズな事業統合が可能となります。
買収目的の明確化:どのような成果を求めてM&Aを行うのかを明確にする。
社員の安心感の確保:頻繁なコミュニケーションと心理的サポートを行う。
段階的な統合:ITシステムや人事制度の統合は無理に進めず、段階的に実施する。
PMIが適切に行われれば、買収先のリソースを活かしつつ、成長を加速させることが可能です。特に**「人材の流出防止」**が最重要課題であることを意識しましょう。