
事業承継は後継者不足や株価が高いことから、スムーズにできない場合があります。そのような時には、「自社株買い」が有効です。自社の株価を引き下げて自社株買いすることで、スムーズに事業承継しやすいでしょう。
これから、自社株買いによる事業承継について、特徴やメリットをご紹介しますので、参考にしてみてください。
経営者から後継者へ事業承継をする時、所有する株式を渡すことが必要です。株式を渡す方法として、株式贈与や株式譲渡などがあります。
株式贈与とは、経営者が後継者に無償で株式を渡すことです。後継者は贈与税を支払いますが、毎年110万円までなら非課税になります。一方、株式譲渡とは後継者自身の資金で株式を購入することです。経営権を得られる分の株式を購入するため、多くの資金が必要になります。事業承継では、経営者から後継者への株式贈与が一般的です。
暦年贈与の場合、贈与税の非課税分まで贈与をしていき、自社株を承継していきます。 贈与税の金額は、株式の評価額で算出します。よって、自社株の評価額が高いと、非課税枠で贈与できる株式の数は少なくなるでしょう。
非課税枠内で行う場合、経営権を獲得できるほどの株式を贈与するためには、数年かかる可能性もあります。つまり、株価が高いのは、スムーズに事業承継できない原因になるのです。
また、贈与後や贈与中に経営者が亡くなってしまうと、過去3年分は相続扱いになります。よって、経営者が高齢や病気になってから株式贈与を始めると、途中から相続扱いになる場合もあるのです。相続になった場合、金額によっては相続税を支払うことになります。
その他の課題として、株式分散があります。経営者の株式が分散することで、決議権なども分散する可能性が高いです。後継者が持つ経営権を確立させるためには、株式分散は避けた方がいいでしょう。
株式分散になると、会社の意思決定が困難になります。また、経営権などが買収されるリスクも高いです。分散された株式を後継者が集めることも難しくなります。
さらに、従業員や役員に事業承継する時は、自社株を買取してもらうのが一般的です。しかし、買取する資金がないと、スムーズに事業承継できないこともあります。
他人名義を借用した「名義株」がある場合は、事業承継までに整理しておかないとトラブルになる可能性があります。名義株は平成2年以前に設立された株式会社で発行されたものです。他人名義を借用して株式を取得していたもので、名義株主の所在不明として放置されている場合があります。
しかし、突然、名義株主が現れる時には、注意が必要です。多くの名義株式を持っていた場合、権利を主張されてスムーズに事業承継できなくなります。連絡が5年以上取れない株式は処分して整理することが可能です。条件や手続き方法は複雑になりますが、連絡が取れない名義株の整理をしておきましょう。
株式の評価額が高い場合、贈与税や相続税の税率は高く、後継者が支払う税金も多くなります。株式の評価額が低くなれば、株式贈与などで移動できる株式の数を増やすことが可能です。よって、株式贈与や相続をする場合、自社株の株価を引き下げることで、スムーズな事業承継がしやすくなります。
株式評価額を下げる方法は、「類似業種株価」「純資産株価」「自社株買い」などです。
類似業種株価は、1株当たりの配当額や年利益額・純資産価額を類似業種と比較して算出します。具体的には、株式配当金を低く設定、役員報酬の引き上げなどです。純資産株価で、相続税対象の純資産を減らす、発行株式数を増やすなどで評価額を下げられます。
自社株買いとは、会社が発行している自社株を購入することです。自社株購入で発行総数を減らすのは消却といいます。買取した株は市場に出回らないため、市場に流通する株式数は減るでしょう。よって、株式の分散を防ぎ、スムーズに事業承継しやすくなります。
自社株買いをすると、発行済み株式数が減って1株当たりの純利益は上がるため、株価は上がるのが一般的です。購入した自社株の消却をする場合、株価に影響はありません。しかし、事業承継のために株価を下げたい場合は、購入した自社株を処分することが効果的です。
処分をすると、一時的に株価を引き下げられます。引き下げ率は株式数によって異なりますが、処分する数が多いと、株価も下落しやすいです。
事業承継で自社株買いをするメリットの一つが、株主への還元資金を作れることです。自社株を自分で購入することで、株式発行数を減らせます。よって、株価が上がるため、価値が高い株式にできるのです。株式の価値が高いと、会社の将来性も高いと判断され、株主数が増えるでしょう。
また、自社株買いする会社はその分の資金があるため、業績が安定していることを世間に伝えられます。さらに、増配による利益配分などもできるため、株主から喜ばれる可能性が高いです。
自社株買いをすることで、従業員持ち株制度のストックオプションを利用できます。自社株買いをした株式をストックオプションへ転用すると、従業員が株式を持てるのです。
従業員が株式を持つメリットは、会社の業績を高められることでしょう。業績がよくなれば株式価格も上がるため、従業員の仕事に対するモチベーションが上がります。しかし、ストックオプションは配当に比べると、利益還元率は低めです。従業員がストックオプションで株式を持たない可能性もあるため、注意しましょう。
自社株買で分散や外部流出を防げば、買収対策にもなります。事業承継における後継者の持ち株数が少ないと、経営権を確立することができません。決議権なども分散してしまうため、会社の経営が困難になります。自社株買いをすれば、流通できる発行済み株式の数は減るため、外部株主からの口出しや敵対的買収などのリスクを防げるでしょう。
特に、会社の経営陣から合意を得ずに株式を取得する敵対的買収の防衛は大切です。この対策をするためには、自社株買いを利用して株価を上げます。買収には多くの資金が必要になるため、敵対的買収を断念させる可能性が高まるのもメリットでしょう。