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スモールM&A、承継型起業のスキームとしての株式譲渡

株式譲渡とは、会社のオーナー(株主)が保有している株式を買い手に売却するM&A手法のことです。買い手は会社のすべての権利(経営権、資産、負債、契約)をそのまま引き継ぐことになります。中小企業やスモールM&Aでは最も一般的なスキームです。

株式譲渡の仕組み

1. 売り手(オーナー)が保有する株式を買い手に売却します。

2. 株式を買い取った買い手は、その会社の「経営権」を取得します。

3. 会社そのもの(法人)は存続するため、契約関係や許認可も基本的にそのまま引き継がれます。

スキームの流れ(5つのステップ)

1️⃣ 基本合意(LOI)の締結

· 買い手と売り手が、価格や条件の大枠を合意する。

· ここで独占交渉権が設定されるのが一般的。

 

2️⃣ デューデリジェンス(DD)の実施

· 売り手の会社の財務、法務、ビジネスのリスクを徹底的に調査。

· 契約の不備、未払いの債務、未払い残業代、簿外債務などを発見する。

 

3️⃣ 最終契約(株式譲渡契約)の締結

· 売り手と買い手が株式譲渡契約を締結。

· 契約内容には、価格、支払方法、表明保証、支援期間などが記載される。

 

4️⃣ 譲渡実行(クロージング)

· 買い手が売り手に株式譲渡代金を支払う。

· 売り手が持つ株式が買い手に譲渡される。

 

5️⃣ PMI(経営統合)の実施

· 買い手が会社の経営を引き継ぐ。

· 顧客対応、従業員への説明、業務の引き継ぎを行い、会社の安定化を図る。

 

株式譲渡のメリットとデメリット

メリット(買い手の視点)

1. 契約関係をそのまま引き継げる:取引先との契約や許認可、ライセンスもそのまま継承できる。

2. シンプルなスキーム:会社のすべての権利を丸ごと取得するので、スキームがわかりやすい。

3. 従業員をそのまま引き継げる:雇用契約はそのまま維持されるため、従業員を引き継ぐ手間が省ける。

4. 早期の経営移行が可能:会社の法人そのものを買い取るため、事業承継がスムーズ。

 

デメリット(買い手の視点)

1. 隠れた負債も引き継ぐリスク:未払いの残業代、未払い税金、係争中の訴訟などが買い手の負担になる。

2. 潜在的な法的リスク:過去の契約不備や法令違反の責任を買い手が負うリスクがある。

※そのためDDをしっかりとやることが不可欠です。

3. 株式価格の妥当性が不明瞭:株式譲渡に限らずM&A全般の中での気を付けないといけないポイントになりますが、会社の価値を適切に評価しないと、「高値掴み」になる恐れがある。

4. M&A後の人材流出リスク:株式譲渡に限らずM&A全般の中での気を付けないといけないポイントになりますが、買収後にキーマン(幹部社員や優秀な社員)が退職する可能性がある。

株式譲渡が適しているケース
· 売却するのが中小企業、スモールビジネスの場合(シンプルなスキームが求められる)

· 既存の取引関係を維持したい場合(契約関係をそのまま引き継げる)

· 許認可が必要な業種の場合(飲食、医療、建設業は許認可の再取得が不要になるケースが多い)

 

株式譲渡の注意点

デューデリジェンスを徹底する

o 簿外債務(過去の未払い残業代、未払いの退職金)**が買い手の負担になることが多い。

o 係争中の訴訟やクレーム案件がないか、弁護士のサポートを受けて確認する必要があります。

 

表明保証条項をしっかり確認する 

o 最終契約(では、売り手に対して「表明保証」を求めます。
例:

§ 「未払いの残業代はありません」

§ 「訴訟中の案件はありません」

o もし売り手がこれを虚偽申告していた場合は、売り手が責任を取るという条項を入れます。

 

経営者の引き継ぎ期間を確認する 

M&A後も、元のオーナーが支援する期間を決めておくのが重要です。

支援期間が短いと、取引先や従業員の引き継ぎが不十分で、事業が不安定になるリスクがあります。

事例:株式譲渡の具体例1
· 売り手:地元のクリーニング店のオーナー(60代)

· 買い手:30代のサラリーマンで独立を目指す個人

· 譲渡価格:1000万円

· スキーム:株式譲渡(100%の株式を買い手が取得)

なぜ株式譲渡を選んだのか?

· クリーニング店は、許認可が必要な業種(クリーニング業法)ですが、株式譲渡だと許認可の再取得が不要です。

· 顧客の会員情報や法人契約の引き継ぎがスムーズに行えるのも大きなメリットでした。顧客との契約が引き継げないとなると、新しく契約を全てしなおなさいといけないという大きな手間や負担が発生しまいます。

 

事例:株式譲渡の具体例2

· 売り手:5人のIT会社のオーナー

· 買い手:IT経験のある30代の個人投資家

· 譲渡価格:3000万円

· スキーム:株式譲渡(100%の株式を買い手が取得)

なぜ株式譲渡を選んだのか?

· 取引先の法人契約をそのまま引き継げるため、ITの外注先との契約を再締結する手間が省けた。

· 社員(エンジニア)もそのまま継続雇用されるため、引き継ぎ作業が不要だった。

 

まとめ


· 株式譲渡は、会社そのものを丸ごと買い取るM&Aスキームで、許認可、契約関係、従業員の雇用関係がそのまま維持されます。

· デューデリジェンス(DD)と表明保証が重要で、売り手のリスク(隠れた負債、未払い金、法令違反)をしっかり調査する必要があります。

· スモールM&Aでは、取引関係が多い事業(IT、飲食、クリーニングなど)では株式譲渡が選ばれるケースが多いです。

Tags: 事業承継
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