
後継者が会社を継ぐ際、しばしば問題となるのが税金です。株式に多額の相続税などがかかると、経営権の円滑な承継が困難になってしまいます。そこで、設けられたのが事業承継税制という制度です。ただ、この制度を活用するには担保の提供など、一定の条件を満たす必要があります。
そこで、事業承継に伴う税金問題に悩んでいる人のために、この制度についての詳しい解説をしていきます。
そもそも、事業承継税制とは何かというと、非上場株式の中小企業を対象とし、事業承継に伴う相続税や贈与税に対して猶予および免除を行うという制度です。ちなみに、事業承継とは先代の経営者から後継者が事業を引き継ぐことですが、日本の産業を支えている中小企業ではこの事業承継が進んでいません。経営者が高齢になり、そのまま廃業するケースが増えているのです。
なぜ廃業が増えているのかといえば、後継者がいないというのもありますが、他にも、非上場株式は換金が難しいために会社を継いでも相続税や贈与税を払うことができないという事実が挙げられます。そこで、そうした問題を解決するためにこの制度が創設されたというわけです。
制度の具体的な内容は主に2つに分かれます。
一つは中小企業の経営者が保有していた非上場株式を相続する場合、その会社の後継者となることを条件に相続税の納税を猶予されるというものです。そして、相続税が猶予された状態のまま後継者が死亡すれば相続税は免除されます。
もう一つは、経営者が保有する非上場株式を贈与によって取得したケースですが、この場合も会社の後継者となれば所得税の納税を猶予され、後継者が亡くなると贈与税は免除となります。
「納税を猶予」という言葉からも分かるとおり、事業承継税制を活用したからといってただちに納税を免除されるわけではありません。免除されるのは一定の要件を満たしたまま後継者が死亡した場合に限ります。逆にいえば、要件を満たさなければ猶予を取り消されることになるわけです。
例えば、事業承継を行った後継者が5年以内に会社の代表者でなくなった場合には、要件を満たしていないとしてそれまで猶予されてきた相続税の支払いを求められることになります。 また、後継者が取得した株式を他人に譲渡するなどして手放したり、会社そのものを解散してしまったりした場合も同様です。
その他にも、会社が資産管理会社になったり、会社の年間収入がゼロになったりした場合も事業承継税制を活用するための要件を満たしていないと判断されてしまいます。つまり、相続税の納税猶予を受けたいのであれば、承継した会社の代表として会社を運営し続けなければならないというわけです。
なお、事業承継税制による納税猶予を受けている者は最初の5年間は毎年、それ以降は3年に1回の継続届出書提出の義務があります。これを怠るとやはり、納税猶予が取り消されるので注意が必要です。 ちなみに、納税猶予が取り消されると、税金の一括納税を求められるばかりか、猶予期間中の利子まで請求されてしまいます。
事業承継税制を利用するには一定の条件を満たし、その上で定められた期間に手続きを行う必要があります。
まず、「上場企業」「中小企業に該当しない会社」「風俗営業会社」「資産管理会社」「総収入金額がゼロの会社」「従業員がゼロの会社」の中の一つでも該当すれば、事業承継税制を利用することはできません。また、先代の経営者が会社の代表権を有し、相続開始直前の時点で議決権の50%以上を保有していたことも事業承継税制を利用するための要件です。
もちろん、後継者についても誰でもよいというわけではなく、一定の条件が設けられています。例えば、相続の場合なら、「相続開始日から5カ月以内に代表権を有すること」「相続開始の直前に会社の役員であること」「50%以上の議決権を有していること」などといった具合です。
ちなみに、贈与の場合は「会社の代表権を有していること」「満20歳以上であること」「役人就任から3年以上経過していること」などが主な条件となります。
さらに、猶予してもらう納税額や利子に見合うだけの担保を提供するというのも制度利用のための必須条件です。担保として有効なものとしては、不動産、国債・地方債、有価証券、支払い能力のある保証人の保証書などが挙げられます。しかし、実際にはそのような担保を用意できないという人も少なくありません。その場合は、相続した非上場株式の全てを担保として提供することになります。
もし、非上場株式の評価額が納税や利子の額に達していなかったとしても、税額相当の担保提供があったとする「みなす充足」という制度があるので安心です。 一方、手続きの方は申告期限までに都道府県知事の認定を受けることが必須条件であり、そのためには相続開始から8カ月以内に申請を行う必要があります。
担保提供の手続きをする際には、「担保提供書」「担保目録」「速やかに担保関係書類の提出を行う旨の確約書」の3つの書類を税務署に提出します。ただし、非上場株式を担保とするなら、最初に株式を法務局に供託し、その上で供託書の正本を税務署長に提出する必要があります。
それから、「承継会社の非上場株式に税務署長が質権を設定することについて承諾した旨を記載した書類」を受け取り、納税者の印鑑証明と一緒に税務署に提出するわけです。そうすると、質権が設定されるので、その後に「承継会社の株主名簿記載事項証明書」と「代表取締役の印鑑証明書」を税務署に提出すれば手続きは完了です。
なお、手続きに必要な申請書類は国税局のホームページからダウンロードすることができます。非上場株式を担保にする場合はホームページのトップから「税の情報・手続・用紙」「納税・納税証明書手続」「延納・物納申請等」「3 様式集 非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予関係書類」の順番にリンクを辿っていきます。
一方、不動産、国債・地方債、有価証券、保証人の保証書などを担保にする場合はホームページのトップから「税の情報・手続・用紙」「納税・納税証明書手続」「納税証明書及び納税手続関係」と進んでいきます。すると、「納税の猶予等に係る担保の提供手続」の中に「不動産、船舶、航空機等」「国債、地方債、社債、その他の有価証券等」「保証人」という3つの選択肢があるので該当するものを選択すればよいわけです。
以上が担保提供手続きの概要です。実際に行う際にはしっかりと確認をし、間違いがないようにしていきましょう。