
スモールM&A、承継型起業において買い手として売り手の会社の価格を下げていただいて、安く買うことができることはとても重要になります。ここでは売り手経営者との関係を築いていくことで超友好的な関係をつくり会社の価格を下げることができる可能性についてご説明します。
敵対的買収と友好的買収、そして超友好的な会社の買い方があります。どれもM&Aの正当な手法であり、事情や状況に応じて使い分ければよいのです。そして、当然それぞれにメリットとデメリットがあります。ここで、改めてそれぞれの特徴とメリット、デメリットについて解説しておきましょう。
敵対的な買収とは、相手企業の同意を得ないまま、強引に買収してしまうM&A手法で、「敵対的TOB(株式公開買付け)」とも呼ばれます。
この場合、買収する側の企業は相手企業の株式を一気に買い集め、過半数以上の株式を保有して経営権を獲得してしまいます。
敵対的買収の事例としては、2010年に行われた、ドイツの製薬会社・ベーリンガーインゲルハイムによる、エスエス製薬のTOBがあります。ベーリンガーインゲルハイムは、事前通知をしないままTOBを開始。それに対して、エスエス製薬の経営陣は同意・反対の意思を示しませんでしたが、個人株主たちが売却に応じ、結果的に敵対的買収が成立。ベーリンガーインゲルハイムは、エスエス製薬の株の93%を取得し、同社を完全子会社化しました。交渉しても簡単には売ってくれないだろうな、という会社を買いたければ、このTOBを行うしかありません。
相手に売る気がなくても株式市場を通して買うことができる、つまり相手の了解が要らないことです。交渉に要する時間も費用も少なくてすむので、余計な手間暇がかかりません。
デメリットは、買収価格が(友好的買収に比べて)高くつくということです。また、買収を仕掛けても絶対買えるとは限りませんし、買った後にその企業(残留した経営陣など)が、経営に協力してくれる保証もありません。往々にして遺恨を残す可能性があることもデメリットとなります。
※敵対的買収についても一応記載をしていますが、スモールM&A、承継型起業においては敵対的な買収はないと思っていただいてよいです。ここでお伝えしたかったのが、売り手との関係が良くないと会社は変えない、買うとなっても高値になってしまうということです。
敵対的な買収に対して、友好的な買収は「双方の経営陣の合意・賛成」のもとに進めるM&Aです。日本国内での企業買収は、この友好的買収で行われることがほとんどです。
友好的な買収は、敵対的買収と異なり、まずは「買いますか?」「売りますか?」「どのような形で売買しましょうか?」という話し合いがあって、これなら問題ないですね、とお互いが同意・納得したうえで進めていきます。
「敵対的買収よりも成功の確率が高く、買収後も遺恨を残すことなく、Win-Winの関係になれる可能性が高い」、という点にあります。
デメリットがあるとすれば、超友好的な会社購入と比べると、「場合によっては高い買い物になってしまう」ということです。通常の友好的買収では、「売買価格が相場観に左右される」からです。超友好的な購入では、相場観にあまり左右されません。
また、M&A会社を介して購入する場合、仲介手数料が発生するので、その点においても、やや割高になってしまう可能性があります。
友好的な買収と超友好的な購入は、ケースによっては線引きが難しい部分もありますが、両者の最も大きな違いは、「身内として(身内のような関係性で)購入するか否か」という点です。その点において、売買価格に大きな違いが発生します。その違いとは、「利益相反」するかしないかということです。
どういうことかというと、通常、友好的な買収においては(友好度合いにもよりますが)、売るほうとしては「少しでも高く売りたい」、買うほうとしては「少しでも安く買いたい」と考えます。お互いの利害が相反するので、程度の差こそあれ、どうしても価格面で利益相反が生じるのです。
超友好的な会社購入になると、こうした利益相反が発生しません。相手が親族または親族のような関係の人だったら、「できるだけ安く譲ってあげたい」と思うのが人情です。売るほうは「安くしてあげたい」、買うほうも「安く買いたい」と、利害が完全に一致するのです。
超友好的な会社購入でも、もちろん利害相反は0(ゼロ)にはなりませんが、ベースの信頼度が高ければ利益相反の度合いが下がるのです。
このように、超友好的な会社購入のメリットは、「比較的お値打ち価格で会社を購入することができる」ことですが、他にもいくつかメリットがあります。それは、「相手の経営者が、譲渡に対して採算度外視で協力してくれる」「人脈や経営手法も含めて継承できる」「購入後も、前経営者からのフォローを受けられる」という点です。
多くの友好的な買収では、それまでその会社が培ってきた人脈や経営手法、ノウハウは完全には承継されませんし、引退した経営者が全面的に経営を助けてくれることも、一部の例外を除いて、あまりありません。
超友好的な会社購入は、その点において、単なる友好的な買収にはないメリットを持っていることを覚えておいてください。
ここまで読まれた方は、超友好的な会社購入はいいことづくめのように思うかもしれませんが、デメリットもあります。超友好的な会社購入は身内的な関係で会社を譲渡されるので、いわゆる「しがらみ」にとらわれてしまうリスクが生まれるのです。
それは、ときにはメリットにもなるのですが、そうした人間関係や経営上のノウハウが逆に足かせになってしまい、ドラスティックに事を進められないことも起こり得ます。
敵対的な買収もしくは友好的な買収では、いってみれば「後腐れがない」ので、買収後はある程度、自分の好きなように思い切った経営ができます。対して、超友好的な会社購入の場合は、元々いる経営陣とずっとお付き合いが続いていくので、その点で少しやりにくい部分が出てくる可能性があります。
これは、自分で起業する場合と、親の事業を継ぐ場合に発生するメリット・デメリットと同じです。自分で起業する場合は、やりたいようにやれる代わりに一から会社を作らないといけない。親の事業を継ぐ場合は、一からやらなくていい代わりに従前のしがらみが付いてくる、ということです。
もう一つ留意しておきたいのは、超友好的な会社購入では、他の購入手法と比べて比較的お値打ちに買えることのほうが多いのですが、絶対そうとは限らないことです。
例えば、市場価値でいうと本来なら500万円くらいの会社なのに、「どうしてもこの借金を返さないといけないので、1000万円で買ってもらえないか」という類の話もあるのです。親族内承継であれば、借金だらけで承継したくない会社でも、仕方なく借金込みで承継せざるを得ません。先ほどお話した「しがらみ」ではありませんが、身内のような関係だからこそ、リスクを負わざるを得ないという状況に立たされてしまう。その点を前もって認識しておく必要があります。