
日本には経営者が自ら株式を保有しているオーナー会社が数多く存在していますが、彼らの高齢化によっていかにスムーズに事業を承継するかが喫緊の課題となっています。事業承継には様々な方法があり、そのなかの一つがMBOの手法を活用するというものです。
このMBOについてはそれほど広く知られているわけではないため、以下ではその内容やメリットなどについて見ていくことにします。
会社の事業を承継する場合、なるべく円滑に進めるためには、できればその会社のことを良く知っている人に引き継いでもらうのがベターです。そのため、家族経営を行っている会社であれば、社内にいる家族や親族、そうでないなら会社の役員を務めている人物が承継者の候補となるケースが自ずと多くなり、いかにして大きなトラブルなく彼らに会社を委ねるかが重要となります。
この点、身内に事業を承継する親族内承継の場合には、株式の生前贈与などの手段を使うことが有効です。
一方で、親族外の社内の経営者に事業を承継するといういわゆる親族外承継の場合には、そのための手段の一つとしてMBOと呼ばれる方法が用いられることが多く、これは代表取締役などの社内の役員にオーナーが保有している会社の株式を譲渡することによって、経営権を引き継いでもらうというものです。
では次に、MBOとはどういったものであるかについて触れておくこととします。
MBOというのはマネジメント・バイアウトの略語で、日本語では経営陣買収などと訳されることがあります。その内容は、会社の経営陣が株主からその会社の株式を譲り受けたり、その会社の事業の譲渡を受けたりすることによって、自らがオーナー経営者となって独立することを言います。
類似する用語には、EBOやMEBOという言葉があり、前者はエンプロイー・バイアウトの略で、従業員が会社の株式や事業を譲り受けて独立する行為、後者はマネジメント・アンド・エンプロイー・バイアウトの略で経営者と従業員の双方が同じく株式や事業を譲受されて独立する行為です。
オーナー経営者以外に、取締役などの経営陣が複数いる会社の場合には、そのような人物の中から会社の将来を委ねるに足りる人物を選定してMBOによって株式や事業を承継してもらうことで、スムーズな事業承継が可能になるという訳です。
ここからは、MBOの仕組みを見ていくことにします。
MBOを行うためには、現在いるオーナー経営者から会社を承継する別の経営者が株式や事業を買い取る必要があるのですが、そのためには当然ながら相応の対価を支払うことが必要となります。もっとも、一つの会社を買い取ることができるだけの資金力を有している経営者というのは、それほど多くいる訳ではありませんので、MBOを使って事業承継を行うにはその資金をいかに調達するかが課題となります。
承継者に十分な自己資金があれば問題はありませんが、そうでない場合には、銀行などの金融機関から借り入れを行ったり、資金力のある共同出資者を募って共同で株式を取得するといった方法が良く用いられます。
資金の見通しが立てば、いよいよMBOに向けた準備を進めることになりますが、まず最初に行うべきこととして、特定目的会社(SPC)の設立があります。SPCは必ずしも設立しなければならないものではありませんが、資金をプールするために設立されることが一般的です。
SPCが設立されれば、そこに承継者の自己資金や金融機関からの借入金などの資金を集め、SPCが主体となってオーナー経営者から会社の株式を買い取ることになります。そのうえで、会社とSPCを合併などの手法を使って統合することによって、承継者が元の会社の全株式を取得できるということになります。
既に述べたように、MBOは最終的にSPCと承継する会社を統合することによって会社の経営権を取得するという手法であることから、合併や企業買収を意味するM&Aと同視されがちです。しかしながら、厳密には両者は似て非なる概念ですので、ここではその差異について説明します。
まず、MBOにおいては買い手となるのはあくまでも社内にいる経営陣であることが前提です。そのため、通常は事業承継後も、従来の経営方針が大きく変更される可能性は低く、事業が安定的に今後も継続されることが期待できます。
また、これまで培われてきた社風や伝統も維持されることから、従業員や取引先といったステークホルダーとしては、これまでと同様の関係を続けたいと考えるインセンティブが働くことでしょう。また、会社を承継する経営者としても、これまでの雇われ経営者の立場から自ら株式を保有するオーナー経営者の立場に変わることから、より会社の価値を向上させようというモチベーション向上につながることになります。
一方、M&Aの場合には、買い手となるのは社外の会社や人間であることが前提です。そのため、これまでの経営方針や社風などが維持されるかどうかは不透明である反面、社内にはいなかったような優秀な経営者に今後の会社のかじ取りを委ねることができる可能性があります。また、承継先が豊富な資金や高いブランド力を有している場合には、それらを活用することで一気に事業を拡大することも可能です。
このように、MBOとM&Aとでは、会社の承継者が社内の人間であるか、社外の人間であるかという点が最大の差異であり、それぞれに特徴やメリットは異なっているのです。
MBOを使って事業承継を行うことのメリットは、既に述べたように会社のことを良く知っている経営者が引き継ぐことによって、従来の経営戦略や社風などを維持することができるという点です。そのため、業績が好調で大きく経営を見直す必要がない会社の事業を承継するような場合には、このメリットを最大限活かすことが可能となります。
MBOによる事業承継にはメリットだけでなくデメリットも存在します。
例えば、承継前からその会社にいた経営者が事業を承継しても、社内外のステークホルダーからは変わり映えしないように見えるため、一気に事業を拡大するといったことは困難です。また、株式を買い取るための資金の調達についても、言葉でいうほど容易なことではありません。そのため、資金調達に失敗すれば最初の段階で躓きかねないというのもデメリットであると言えるでしょう。